大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和62年(行コ)6号 判決

控訴人(第一審原告)

熊谷達

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

右同

菊地幸夫

被控訴人(第一審被告)

野辺地町

右代表者町長

安田貞一郎

右訴訟代理人弁護士

祝部啓一

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は控訴人に対し金九二万四〇〇〇円を支払え。

三  訴訟費用は、第一審及び第一次、第二次控訴審並びに上告審とも全部被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は、主文一、二項と同旨の判決を求め、被控訴人は、本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、その陳述したものとみなされた答弁書には、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求める旨の記載がある。

第二  当事者の主張

左記のほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決二枚目裏一一行目の「4」から同三枚目表一行目までを次のとおり改める。

「4 しかるに、被控訴人は、控訴人が同議会の議長たる地位を回復したことを争い、古沢磯吉が新たに議長に選出されている以上、控訴人は右審決により議員の職を回復するにとどまり議長の職まで回復するものではないとして、控訴人に対し、条例により毎月二一日に支給されることに定められている一か月金二万八〇〇〇円の議長報酬(議長たる議員の報酬月額金一三万八〇〇〇円と一般の議員の報酬月額金一一万円の差額をいう。)を昭和五五年八月一日以降支払わない。よつて、控訴人は、被控訴人に対し、同日から議長の任期の終了時である昭和五八年四月三〇日までの月額金二万八〇〇〇円の議長報酬計金九二万四〇〇〇円の支払を求める。」

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一控訴人が昭和五〇年五月一日野辺地町議会(以下「町議会」という。)の議員となり、昭和五四年五月九日町議会の議長になつたが、町議会は昭和五五年七月一二日控訴人に対する懲罰事案につき控訴人を除名する旨の議決(以下「本件除名処分」という。)をしたこと、これに対し、控訴人は、同月二三日青森県知事に対し、本件除名処分の取消しを求めて審決の申請をしたところ、同知事は同年一〇月一八日本件除名処分を取消す旨の審決をしたこと、これより先、町議会は、右除名直後である同年七月二六日、議長が欠けたとして議長選挙を行い、古沢磯吉を議長に選出したこと、ところが、被控訴人は、右知事の右審決があつた後も、控訴人が町議会の議長たる職を回復したことを争い、昭和五五年八月一日以降控訴人に対し一か月金二万八〇〇〇円の割合による前記議長報酬の支払をしていないことは、いずれも当事者間に争いがない。

二被控訴人は、(1)地方議会の議長選挙に関する紛争は、裁判所の司法審査の対象とはなりえない、(2)被控訴人は本件訴えにつき当事者適格がない、(3)控訴人は、本件議長選挙に関して、地方自治法一一八条五項により県知事に審査を申立てその裁決に不服がある場合に限つて裁判所に出訴し得るところ、同項の定める期間内に右審査の申立等をしなかつたから、もはや本件議長選挙の効力を争つて裁判所に出訴することはできない、として、本件訴えは不適法である旨主張している。しかし、右(2)の主張については、町議会は普通地方公共団体たる町の議決機関であつて、議長はその構成員であるから、控訴人が議長であることを前提として議長報酬の請求をすべき相手方は町である被控訴人であるというべく、したがつて、この点に関する被控訴人の右主張は採用できないし、次に右(1)(3)の主張については、本訴請求は裁判所の審判の対象となりうるものであつて、本件訴えが適法であることは差戻前の本件上告審である最高裁判所がその差戻の判決において判示するところであるから、右主張もこれを採用することができない。

三しかして、前記事実関係の下において、控訴人は、本件除名処分を取り消す旨の青森県知事の審決により、右除名処分時である昭和五五年七月一二日にさかのぼつて議員の職とともに議長の職をも回復するものと解すべきことについても、本件上告審である最高裁判所がその差戻の判決において判示するところであるから、控訴人は議長たる議員の報酬の支払を請求する権利を当然に回復し、被控訴人は右報酬を支払うべき義務があるというべきところ、被控訴人が控訴人に対し、昭和五五年八月一日以降一か月金二万八〇〇〇円の割合による前記議長報酬の支払をしていないことは当事者間に争いがなく、控訴人の議長の任期が昭和五八年四月三〇日をもつて終了したことは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、被控訴人に対し、この間における一か月金二万八〇〇〇円の割合による三三か月分計金九二万四〇〇〇円の議長報酬の支払を求める控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきである。

四よつて、これと異なる原判決は相当でないから、これを取消すこととし、民事訴訟法三九六条、三八六条、九六条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤和男 裁判官松本朝光 裁判官西村則夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例